不動産評価の流れとその歴史的背景

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不動産評価の歴史的背景

不動産評価制度の起源は税収確保のためであり、古代から現代に至るまでその基本的な考え方は変わっていません。日本では、大化の改新(645年)による公地公民制がその出発点です。この制度は、全国の土地を国家の所有とし、農民に耕作を任せ、収穫量に応じた租税を納めさせるものでした。この評価方法は極めて大雑把でしたが、土地の評価の基礎が形成されました。田畑の評価は、その収穫高に基づき、税を課すための基準となりました。これは、現在の鑑定評価で用いられる収益法の原型ともいえます。

豊臣秀吉による「太閤検地」は、土地評価に画期的な変化をもたらしました。日本全国の田畑を測量し、米の収穫高に基づいて評価することで、上田(うえた)、中田(ちゅうた)、下田(げだ)というように土地をランク付けしました。この評価は、収益法による不動産評価の先駆けであり、現在でもその基本的な考え方は受け継がれています。

江戸時代の土地評価制度

江戸時代になると、土地の評価方法はさらに進化しました。当時、商工業の発展を促進するために、町民の自治に任されることが多くなり、地方税に相当する「町入費(ちょうにゅうひ)」が徴収されました。「町入費」とは、江戸時代における地方税の一種で、町民が自治体に納める税金です。ここでの土地評価の基準は、建物の「間口」(まぐち:建物の幅)を基準にしていました。この評価方法は、現代の取引事例比較法に通じるもので、間接的に収益を測ろうとする考え方が含まれています。

また、堤防の修理や建設に伴い、農地を収用する際には、その土地の収穫高を基に補償金を支払う制度もありました。これは、現在の鑑定評価基準で用いられる収益還元法に相当するものです。農地の収穫高を金銭に換算し、10%の利回りで還元して補償額を算出する方法が一般的でした。

明治維新以降の評価制度

明治維新以降、土地制度は大きく変わりました。旧来の年貢(土地の税金)は、国税としての地租(ちそ)に改められ、全国の土地に対して統一的な評価が行われるようになりました。これに伴い、土地の所有者には「地券」が交付され、所有権が明確化されました。地券の所有者が納税義務者とされ、その土地の価値に基づいて税が課されました。

評価の基準として、当初は土地の収益性に基づいて評価が行われましたが、徐々に土地の売買実例を基にした評価方法が採用されるようになりました。市街地の土地評価も、地代(土地を借りる際に支払うお金)を基にして価格が決定されました。

昭和初期には、固定資産税の課税標準となる評価方法が確立されました。特に、賃貸価格に一定倍率を乗じて評価額を求める「賃貸価格方式」が導入され、市町村税としての固定資産税が創設されました。これにより、固定資産の評価方法が体系的に整備され、現在の固定資産税の基盤が築かれました。

戦後の評価制度と現代の実務

第二次世界大戦後、地租は廃止され、新たに創設された固定資産税が税収の柱となりました。このとき、課税標準となる土地や家屋の評価方法として、資本価格に基づく評価が採用されました。しかし、実際の評価方法は、賃貸価格に一定の倍率を掛けた方法が引き続き用いられました。

この評価方法は、現在でも相続税や固定資産税の評価に広く用いられています。また、公共用地の収用に際しては、正当な補償が行われることが法律で定められています。土地収用法に基づき、近隣の類似地の取引価格を考慮した補償が行われることが求められます。

一方で、民間の不動産評価は、主に金融機関による担保評価が中心となっています。貸し付けの際、担保としての土地や建物の価値が評価され、正確な調査と鑑定が行われます。この評価は、精密なデータに基づき、金融機関がリスクを最小限に抑えるための重要な手段となっています。

日本勧業銀行の役割

日本の不動産評価制度の確立には、日本勧業銀行の役割が大きかったです。1896年に設立された日本勧業銀行は、主に農業や産業の振興を目的として資金を提供していました。特に、不動産を抵当にした貸付けを行う際には、厳密な鑑定調査が義務付けられており、不動産鑑定における専門的な知識と技術の発展に大きな役割を果たしました。これにより、不動産評価に関する専門的な知識と技術が日本全国に広がりました。

戦後の占領政策により日本勧業銀行は廃止され、普通銀行である第一勧業銀行(現:みずほ銀行)に転換されました。

その後、1959年に設立された日本不動産研究所が、不動産鑑定基準の策定に大きく寄与し、現在の鑑定評価制度の基礎を築きました。

まとめ

この記事では、不動産評価の歴史的背景から現代の評価制度に至るまで、税収の確保を目的に進化してきた土地評価の流れを解説しました。
古代から続く土地の収益性に基づく評価方法は、現在の不動産鑑定評価基準にも反映されています。
また、豊臣秀吉の太閤検地や明治維新後の地租制度など、時代ごとに評価方法が洗練されてきました。
現代においても、これらの基礎に基づき、精密な評価が求められています。

不動産評価は、金融機関の担保評価や公共用地の収用補償など、多岐にわたる分野で重要な役割を果たしています。
不動産鑑定士は、その専門知識を活かし、正確で公平な評価を提供することで、不動産市場の信頼性を支えています。

参考文献
鵜野和夫著『不動産の鑑定評価がもっとよくわかる本』
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